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論文
2019.10.1
新規食事調査票「栄養価日記 (Calorie and Nutrition Diary; CAND)」の開発鈴木直子, 馬場亜沙美, 柿沼俊光, 佐野友紀, 田中瑞穂, 大内幸子, 渡辺健久, 山本和雄New Food Industry 2019; 61(10): 721-732
2019.10.1
新規食事調査票「栄養価日記 (Calorie and Nutrition Diary; CAND)」の開発鈴木直子, 馬場亜沙美, 柿沼俊光, 佐野友紀, 田中瑞穂, 大内幸子, 渡辺健久, 山本和雄New Food Industry 2019; 61(10): 721-732
New Food Industry・投稿論文 (原著論文)
Background and aims: A recently developed simple dietary survey method based on nutritional assessment by meal units calculates the nutritional value for a meal by the prior allocation of meal component values, requiring the respondent simply to give the name of the meal and state the presence or absence of fish, meat, or tofu. This reduces the burden on the respondent compared to that associated with completing a weighed-food dietary record survey. However, Japan’s 2017 National Health and Nutrition Survey Report noted that many people, especially men, did not cook their own meals at home, which could result in uncertainty in accurately describing meals and the names of dishes. In this study, we developed, and tested the validity and reliability of, a new diet questionnaire, the Calorie and Nutrition Diary (CAND), which enables people who are unfamiliar with cooking to provide sense-based answers.
Method: CAND was used to conduct a dietary survey of 151 Japanese men and women aged 18–89 years. This was completed on any day during the survey period in which the participant ate breakfast, lunch, and dinner. The participants were provided with a booklet that classified the names of the dishes based on the Japanese Food Guide Spinning Top; referring to the booklet, the participant completed a computer-scored answer sheet that recorded the contents of meals consumed over the day. The validity and reliability of the CAND were examined by comparing the results with nutritional calculations obtained from a photographic dietary assessment. In total, 48 nutrients were included, including calories, total carbohydrates, protein, and total fat.
Results and discussion: There were statistically significant strong positive correlations between the nutritional values determined from the CAND and the calculations based on photographic dietary assessments, confirming the validity and reliability of the CAND. This study demonstrated that the CAND provided a feasible method for the investigation of dietary nutrient intake by age and meals per day.
背景・目的: 近年,簡便な食事調査法として料理単位による栄養評価を仕組みとした方法が開発され,その調査法は事前に料理成分値を充当し,該当する食事から栄養素を計算する仕組みとなっている。この方法では,対象者は料理名と魚や肉,豆腐のいずれかが入っていたかを記載するため,従来の秤量法にくらべ対象者の負担は軽減される。しかしながら,平成29年国民健康・栄養調査報告の一人世帯における自炊率をみると,男性は女性に比べて自炊をしない者が多く,このような対象者がいた場合に料理名を正確に記載できるか定かではない。そこで,本研究では料理に馴染みのない者でも感覚的に回答できる食事調査票「栄養価日記 (Calorie and Nutrition Diary; CAND)」を開発し,その妥当性と信頼性を検討した。
方法: CANDを用いた食事調査は,10代から80代の日本人男女を対象に実施した。調査日は調査期間のうちの任意の1日,かつ朝・昼・夕の食事を摂る日とした。対象者には食事バランスガイドを基に料理名を分類した専用の冊子を配布し,対象者はその冊子を見ながら,その日に摂取した食事内容を専用のマークシートに回答した。CANDの妥当性および信頼性は,写真記録法から得られる栄養計算結果との比較により検討した。調査した栄養素は,エネルギー,炭水化物,たんぱく質,脂質などをはじめとする48栄養素であった。
結果・考察: 写真記録法とCANDによる栄養計算結果を比較したところ,対象としたほとんどの項目において有意な正の相関が認められ,CANDによる食事調査に妥当性および信頼性が確認された。CANDは年代別に料理を構成する食品,および1日当たりの食事の摂取量を調査する上で利用可能な方法であることが示された。
一般的に栄養疫学における食事アセスメント方法には,秤量記録法の他に,目安量記録法や写真記録法,24時間思い出し法,食物摂取頻度調査法,隠膳法などがあり1),その適用には,各方法の長所および短所を理解した上で,目的によって使い分ける必要がある。特に秤量記録法は記録者の記憶を当てにしないため,正確な栄養調査の実施が可能であることから,よく利用される手法である。しかし,煩雑な作業且つ,データ集計には多くの人手,時間,コストがかかるため,記録者および調査者への負担が大きい手法でもある。そのため,広範囲な対象特性をカバーして大人数の協力を得ることは難しく,また個人の食習慣を見積もるのに必要な長期間に渡る調査に至ってはさらに困難であり,大人数を対象または長期間実施する調査には不向きな手法でもある。また,近年は外食率が増加傾向にあり2–6),秤量の困難な食事が多くなっている事も秤量記録法の使用が難しい要因の一つである。
記録者および調査者の負担を軽減しつつ,食習慣や栄養調査を把握するために食物摂取頻度法などの調査も開発され,秤量記録法との相関関係からその精度が検討されている7–11)。ヒトの行動科学や諸習慣を調査する研究では,相関係数r = 0.5以上は強い相関を示唆するとされ12),食生活把握のために開発された質問紙ではr = 0.5–0.7の範囲が望ましいとの報告もある13)。しかしながら,日本人の食物摂取は1回の食事で多くの食材を使用することや,地域ごとに特徴的な食品を使用した料理が存在するため,地域の食事において摂取栄養素に寄与率の高い食品を割り出して質問紙を構成することが重要である。また,食品の摂取頻度を聞く方法においては,料理に携わらない自炊率の低い特に男性の場合6),食品に分解することが困難で調査結果に影響を及ぼすことが考えられる。実際に,筆者らが臨床試験を実施する際に,目安量記録法や食物摂取頻度調査法を使用するが,明らかな重量の記載間違いや,“塩・こしょう少々”などの重量が不明な記載も散見されるため,対象者が正しく理解し,記録できているか定かではない。さらに,調査者は不明な重量が記載されていた場合,記録者に確認は取るものの正確な回答が得られる事は稀であり,記録された内容と聞き取りの内容から一部摂取栄養素を類推するため,人手,時間,コストがかかる上に,得られる摂取栄養素には調査者の主観が入ったバイアスのあるデータとなる。
このように,臨床試験の実施現場で経験した懸念点から,我々は対象者の負担が軽く,普段料理に携わらない者でも感覚的に記録および回答が可能であり,調査者の主観も除くことが出来る簡便な食事調査票の開発が必要であると考えた。本論文では,食事調査票「栄養価日記 (Calorie and Nutrition Diary; CAND)」の開発,およびその調査票の妥当性ならびに信頼性について検討した結果について報告する。
CANDは最終的に臨床試験での使用を想定しており,「保健機能食品」および「いわゆる健康食品」の有効性・安全性を評価する際の食事調査14)として耐えうる内容となるよう設計した。つまり,食事の記載は1日ごとにし,どのような食事を摂ったかが分かる仕組みとした。CANDでは料理名から食事の分類が可能となるように,予め分類した分類項目に該当する料理例を設け,自身が食べた料理がどれに分類されるか選択できるようにした (図1-1)。料理例については,我々がこれまでに実施した臨床試験で行った目安量記録法のデータより抽出した。分類項目については,食事バランスガイド15)を基に「主食」「副菜」「主菜」「牛乳・乳製品」「果物」「種実類」「菓子」「嗜好飲料」の8つに分類した。また,基本分類の8つに分類することが難しい複雑な料理に対応できるよう「その他」の分類も加え,計9つの分類項目を設定した。
9つの分類を“分類1”とし,各分類1に対してさらに「米類」「パン類」「めん類」などのように料理のジャンルを“分類2”として設けた。さらに,分類2の料理のジャンルから分類した大まかな料理名を“分類3”とした。実際に食べた料理と類似した料理を分類3の項目から選択する際に,選択の参考となるよう“料理の一例”も設けた (表1)。選択肢を選ぶ際は,食べた料理が料理の一例に記載が無かった場合でも,近しい料理名を探し,該当する分類3を選択することとした。

CANDにおける分類3の各料理名には,予め栄養素等摂取量を定めた。我々は,臨床試験で実施する食事調査では精度よりも,食生活や食事内容,栄養素等摂取量をある程度把握できることが重要であると考えた。つまり,分類3で該当する料理リストを我々がこれまでに実施した目安記録法で蓄積された料理データから作成し,そのリストの中で算出される栄養素等摂取量が近しい料理名をカテゴリー化して,分類3の項目として設定した。また,カテゴリー化された項目群の各栄養素等摂取量を平均し,その分類の共通栄養素等摂取量として扱った。例えば,白ご飯,もち,おかゆのいずれかを食べた場合,選択する分類3は“白米”であるが (表1),いずれの料理においても同じ栄養素等摂取量が算出される仕組みとした。
CANDでの摂取量単位は「人前」であり,その量はグー・チョキ・パーで感覚的に測定する方法を採用した。“グー”は拳をグーにしたときの大きさのイメージ,“チョキ”は人差し指と中指を並べた上に盛る量のイメージ,“パー”はパーにしたときに手のひらの上に盛る量のイメージ,もしくは手のひらに収まるイメージを指す。グー1つまたはグー2つで1人前とする料理や,パー2つで1人前,チョキを1つで1人前とする料理があり,CANDの冊子分類表の例に倣って決める (図1-2)。


CANDでの記録方法はマークシート形式を採用した (図1-3)。CANDでは1日の摂取量をまとめて記録することとした。その日に食べた料理が分類される分類3に該当するナンバーと同じナンバーの箇所を塗りつぶす形式である。塗りつぶす数字はグー・チョキ・パーで計算した1人前の単位となっており,1日の合計摂取量を計算して塗りつぶす。



調査期間は2018年12月中旬から2019年3月下旬であり,調査対象者は180例であった。調査日は調査期間のうちの任意の1日,かつ朝・昼・夕の食事を摂る日とし,同日に写真記録法とCANDによる調査を行うようにした。
写真記録法は次の通りに行った。すなわち,調査対象者には毎食ごとに食事をする前に料理の写真を撮るよう指示した。料理を撮影する際,カメラを食卓から40-100 cm離し,やや斜めからの位置で規定のものさしを含めて撮影させた。また,写真とは別に写真を撮った日付,各食事で撮影した写真の枚数,完食の有無等を記録させた。
CANDおよび写真記録法による対象者1人1日当たりの栄養素等摂取量の相関には,Pearsonの積率相関係数を求めた。なお,すべての統計解析は両側検定で行い,有意水準は5%に設定した。用いたソフトウェアは,Windows版のSPSS Ver. 23.0 (日本アイ・ビー・エム) であった。
データ未返却やデータ不備等から解析対象者は151例となり (表2),データ取得率は84%であった。

CANDで得られた栄養素等摂取量と,写真記録法で得られた栄養素等摂取量を比較 (CAND/写真記録法 [%]) したところ,概ね100-115%の範囲に含まれた (表3)。この結果より,CANDで得られる栄養素等摂取量は写真記録法よりも多く推定されることが示された。写真記録法との差が+5%以内の項目は「マンガン」「レチノール」「レチノール活性当量」「ビタミンK」「ナイアシン」「ナイアシン当量」であった。一方,写真記録法との差が+10%を超える項目は「不溶性食物繊維」「カルシウム」「セレン」「β-クリプトキサンチン」,「ビタミンB12」であった。その他の項目は写真記録法との差が+6%~+10%の間であった (表3)。
CANDと写真記録法の1食分から算出した栄養素等摂取量の相関関係を分析した結果,分析対象とした48栄養素のうち,「銅」「レチノール」および「レチノール活性当量」を除く45項目で0.4以上の有意な相関が確認され,さらに「炭水化物」「ビタミンB12」および「葉酸」を除いた42項目は0.5以上の有意な相関が認められた (表3,図2)。
開発された食事調査法の妥当性・信頼性を検証するために秤量記録法と比較した研究は,これまでにいくつか報告されている。太田ら16)の報告では,秤量記録法と食物摂取頻度調査法の比較において,エネルギーおよび三大栄養素 (たんぱく質・脂質・炭水化物) で栄養素等摂取量の比 (頻度調査法/秤量法 [%]) が100 ± 5%以内であり,39栄養素中37栄養素で有意な相関が認められている。また,高橋ら9)の報告では,食物摂取頻度調査法と秤量記録法の比較において,高い相関は確認されなかったものの,摂取量比が31栄養素中19栄養素で100 ± 10%以内であり,食物摂取頻度調査は秤量記録法による食事状況をよく把握していたと考察されている。


本調査では,CANDの比較対照が秤量記録法ではなかったものの,摂取量比 (CAND/写真記録法 [%]) が100 ± 10%を外れた栄養素は48栄養素中5栄養素 (不溶性食物繊維,カルシウム,セレン,β-クリプトキサンチン,ビタミンB12) であった。太田ら16)と高橋ら9)の2つの研究では,秤量記録法による食事調査と頻度調査法による調査が別の食事であったが,本調査ではCANDによる記録と写真記録法による記録が,同一の食事を反映していたため,CANDと写真記録法で得られた栄養素等摂取量にあまり大きな差はなかった結果が得られたと考えられる。
食生活把握のために開発された質問紙における相関係数はr=0.5–0.7の範囲が望ましいとの報告がある13)。一方で大内ら17)は,料理名と目安量を記録する簡易記録食事調査と秤量記録法の比較を行い,48栄養素中27項目で0.4以上の相関が確認され,大内らが開発した簡易記録食事調査は秤量記録法より簡便で有用な調査法であると報告している。本調査では,CANDを用いて算出した栄養素等摂取量と,写真記録法から得られた栄養素等摂取量の相関関係を分析した結果,銅 (r = 0.381),レチノール (r = 0.343),レチノール活性当量 (r = 0.376)、炭水化物 (r = 0.473),ビタミンB12 (r = 0.454) および葉酸 (r = 0.442) を除く栄養素 (42栄養素,全体の項目の87.5%) で0.5以上の有意な相関が確認された。さらに,0.4以上の相関が確認された項目は銅,レチノールおよびレチノール活性当量を除いた45栄養素 (全体の項目の93.8%) であった。食生活把握のために開発された質問紙における相関係数の範囲 (r = 0.5–0.7)13)を満たす項目は全体の87.5%,大内ら17)の考えを基とした相関係数の基準 (r = 0.4以上) を満たす項目は全体の93.8%であり,我々が調査対象とした項目のほとんどが意味のある相関係数であったと考えることができる。よって,CANDは自記式食事調査法として有用であると言える。
本調査の限界としては比較対照の方法が挙げられる。CANDの妥当性・信頼性評価の対照として写真記録法を採用しており,新たな食事調査法を開発した際に比較とするゴールドスタンダードである秤量記録は対照としなかった。その理由として,秤量記録法とCANDの同時記録は対象者にとっては精神的・身体的負担が大きいと判断し,その負担を軽減するために写真記録法との比較にした倫理的配慮があった。写真記録法で算出される栄養素等摂取量は目安量となるため,CANDにおける栄養素等摂取量の精度評価は今後の課題とする。
以上より,CANDと写真記録法の比較から48栄養素中45栄養素において有意な正の相関が確認され,CANDは信頼性のある評価法であることが認められた。また,エネルギー,炭水化物,たんぱく質,脂質,食物繊維量,灰分など重要な栄養素に加え,一部の微量栄養素においても算出結果が信頼できるものと判断でき,妥当な評価法であることが確認された。臨床研究の現場で容易に使用できる点を考慮した食事調査票は,これまでに殆どなく,新たな試みであったと言える。現時点で考え得るCANDの改善点や,今後の運用の中で明らかとなる改善点等を考慮し,CANDのバージョンアップを図っていく予定である。
なお,我々が開発したCANDは次のサイトで公開予定である(https://CAND.life)。CANDを用いて研究を行う場合には,本論文を引用されたい。
写真記録法とCANDによる栄養計算結果の比較より,48栄養素中45栄養素において有意な正の相関が確認され,CANDは信頼性のある評価法であることが認められた。また,エネルギー,炭水化物,たんぱく質,脂質,食物繊維量,灰分など重要な栄養素に加え,一部の微量栄養素においても算出結果が信頼できるものであり,CANDは妥当性のある評価であることも示された。これより,CANDは年代別に料理を構成する食品,および1日当たりの食事の摂取量を調査する上で利用可能な方法であることが確認された。
本研究に際し,調査への参加およびご協力くださいました皆様に深く感謝申し上げます。
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